『欧米独断』 第一北米篇(米国の富力)

人間万事世界第一を以って標的として突進(プッシュ)また突進、鋭意精励、事業の向上進歩を謀って已まざるは米人の信条なり。列強にとって幸不幸は別として、欧州大戦を機とし紐育を世界第一の大都たらしめ、金融の中心たらしめたるだけにて、彼らの第一目的は既に達したるなり。高閣70幾階といふが如きは兒戯に等しく小工業小商店だに乃ち世界一を標示するが如きは噴飯に禁へざるものなきにあらず、然れども大志遂に大成の時なきにあらず。
小膽微志向上の念なきものに優ること萬々なり。彼等は常に大を好み一商店に名ずくるにもパシフィック何々、ユー、ナイテッド何々と称するの少なからず目に触るるを見る、大題小做は愧づべしとして、小より大をいたさんとするの意気は貴ぶべし。糝螺の蟄居にあらざれば蜀蠻の小鬪に一生を費やして悔いず惜しまざる国民には好模範と鑑戒を與ふるものと思わざるべからず。
 米国の廣袤は我21倍に相当し農牧相参差し、農場も地方を回復せんが為に、隔年輪作と、未墾地の其大きに拘わらず小麥の産額實に世界の四分の一に達し豊富世界第一に居る。(中略)
米国の富は地上においてのみならず地下の埋蔵物に於いて更に大なり。彼らの好むところの世界第一として、銀あり銅あり鉄あり石炭あり石油あり。更に鉄と燃料が列国の総額に適して餘ありとせば、富強の基礎はここにあり。他の富強が脅威ならば米国は確かに列国に対して脅威たらずんばあらず。