『欧米独断』 第一北米篇(海の幸、陸の幸)

吉次郎は加州におけるロサンゼルスの日本人漁業の現状とサンタローサの農場について語っている。
 3月9日夜、ロサンゼルスに到着した。街は人口130万と発展著しい。海港サンピードロには太平洋を横断した「これあ丸」が入っていた。その船の南方に漁船港があるが漁師街には8百戸、900人の日本人が居りほとんどが和歌山人である。漁獲は1年に鰮の7万トンを筆頭に11、2万トン、価額は245万円に達する。更に愉快なのは白人と日人の比較であるが、漁獲物は白人3、日人7の比を成している。加州における排日の原因は日人の優勝に対する白人の嫉妬が主なるものの一つとなっているが、こんな漁業の状態であるから州議会へが日本人漁業廃絶を謀る法案が2度も3度も提出せられたけれども、缶詰業者の猛烈なる反対運動によって毎度否定せられたものである。海国男子の為に万丈の気を吐く處實に愉快に堪えぬと再び言わざるを得ず。
 11日サンタナへ行く、途中は橙王国と称す地方で黄色いレモン紅いバレンシャレートが枝もたわわに生っている。(中略)
サンタローサの街について世界に名高い植物改良家バーバンク先生の故園を訪ねた。

 嗚呼海の幸よ、陸の幸よ、佛魔同居なれば禍福も離れず、排日論や土地法は幸福に伴う禍じゃ何も気にせぬで良い。太平洋岸を一巡して後大々的に議論を書く。今は見聞に止めておく。
  故郷を偲ぶに余る草木あり三笠の月を戀ふるのみかは
3月12日ロサンゼルスよりサクラメントを経てシヤトル行きの汽車中コンパ―メント室内にて無逸生、と記している。