「トランパー」出版まであと13日(田中正之輔と日章丸)

――「誰だ!真っ昼間から太鼓叩いての大騒ぎする奴は!」
「へデカンショデカンショで半としくらすゥ……」。
「相当な奴だなア」、「……」。「見てこい!そしておれが怒鳴っとると言え……」、
「お宅の土居さんとお連れさんとだす」
「なんだ土居君か……。こっちに一緒になれと言え。お伴れ……?。お伴れは、だれでもよい、みんなひっぱって来い……」。
かくて闖入した諸勇士は、我が土居君と出光商会(現今の出光興産の前身)の快男児山田孝介氏等々であった。昨日からの神戸高商同窓会の流れという。無理もない、年歯正に三十九才。昭和十年春四月某日曜日、神戸花隈の旗亭、富貴楼の一室でのことである。私自身も憚りながら、夜来のハングオーヴァーである。…これは田中正之輔著「混沌」の一節である
田中は大同海運を造って5年目、ようやく足腰が立ってきた頃、タンカー建造の話である
海軍と話をつけ重量一万三千八百三十三屯、主機ディーゼル九千四百定格馬力、航海速力一七浬、船価三百六十六万二千円也の世界屈指のタンカー「日章丸」が昭和十三年十一月二十九日竣工した
しかし昭和十九年二月二十五日ダバオ沖に於て、その雷撃を受けての沈没、一度も出光の荷を運ぶことはなかった……
一句
バンカラの背にアサヒうけ春の海
≪「トランパー」ムービー版・総集編≫