アイクと呼ばれた男 (15)盟友・石田貞二急逝

 田中正之輔は山下汽船を辞める時に125,000円の借金があった。 昭和12年5月、亀三郎翁は田中ら山下脱退組を午餐に招待した。翁は7年前に辞めた者に退職金を払うという。「金はわしが貸したんだ。初めから払って貰おうと思っとらぬ。退職金は取り悪くかろうが、まあ取っとき給え」と、借金と退職手当の精算書を渡した。あのような辞め方をしたのに、誰も退職金を貰えるものとは思っていなかった。「オヤジさんがやるというなら貰おうじゃないか」と皆はアイコンタクト。オヤジは続けて「何れにしても自力で払えるようになった。偉いものだ。これでわしも店の者に君らの偉さを吹聴できる」といった。その後、田中は亀三郎と文通もし、行き来もするようになった。この頃、準戦時体制の走りで、海運界は他の産業に先駆けて好況を呈した。

 

内航海運新聞 2023/7/3