がいな男 (40)汪兆銘を救う

 がいな男は自伝に「客をよぶ時の心得」を語っている。

 客をよぶことをむつかしく言う人があるが、むしろよばれる方がむつかしい。人を招くという事はよばれることに比べたらもっと気楽なもので、面白いものだ。
 どうしたら来てもらう人に喜んでもらえるか、どういう方法で招いたら2時間でも3時間でも打ち解けていてもらえるか。まず客の嗜好、心理状態を考えることが大事である。
 彼の秀吉が利休に茶道を聞き、三、四畳の狭苦しい茶室で茶碗をひねくり回すという様なことを何故やったかというと、人の心理状態は自分の最も近い所へその人をひきよせて物を食わせ、話して見なければ分からぬという事から始まったのであろうと思う。
 同じ茶人でも頭の悪い茶人は、客が如何なる器を好むか、如何なる嗜好があるかを考えないで、自分の嗜好を客に売らんとし、自分の好む品に対して人の褒めることを強要せんとするやり方をする。
 だから客をするときの主人は、全部の心持を客に捧げて、そうして自分の心づくしが自然に客に響くというやり方でなければならぬ。これが客をする第一の上手だと思う。と昭和15年7月5日に口述している。

 がいな男は、過去において数々の接待をしたが、昭和16年6月21日の汪兆銘を招いた事、更に6月27日の近衛首相などの重鎮を招いたことは、空前絶後の記念すべき宴会だったと振り返っている。

内航海運新聞 2022/11/14