がいな男 32  5.15事件が勃発

 海軍青年将校らが犬養毅総理を襲ったクーデター5.15事件は、軍部の政党政治への反発だった。「吉田三傑」の村井保固は、犬養毅尾崎行雄らと慶応義塾の学友だった。村井が、ニューヨークタイムズで犬養の訃報を知ったのは、またしても株式相場で大穴を空けた頃だった。昔、犬養は村井の親近者に(今の内に村井の財産を日本にまとめて置くがよかろう、左もなければ万一の際、米国人に取られてしまうぞ)と忠告したことがある。しかし妻のキャロラインは夫が相場で失敗すると(お金は有っても無くても、あなたという人間に、何の変わりもあるものではない)といって慰め、(Money makes coolness 金は人間を冷めたくする)と言って金銭には淡白であった。

 軍部の横暴が始まったこの事件後の臨時国会で(私も荒木貞夫陸軍大臣に質問いたしたいと思いますが……)と手を挙げた男がいた。政友会の「吉田三傑」清家吉次郎である。政党政治の危機に、国家を憂う「霹靂の舌」を持つ吉次郎が勇敢にも荒木陸相に迫ったのである。

内航海運新聞 2022/9/19