がいな男 20 欧米視察の旅

 日本海運集会所は、毎年、故住田正一氏の海事資料刊行、海事史の研究を通じて、広く海事文化の発展に寄与した記念して、住田正一海事奨励賞など三賞を表彰している。 
 住田正一は松山市出身、東京帝国大学・法科大学政治学科卒のインテリで、鈴木商店の船舶部に配属されたが、金子直吉はその才能を買って秘書にした。住田は金子のもとで外回りをやらされた。

 亀三郎は、住田から時々面談を申し込まれた。今回も国際汽船に出資した会社の対応を聞いたが明確な説明に、(この男はなかなかデキルな……)と目をかけていた。
「君は愛媛の出身と金子さんから聞いたが、どこの産かな」と同郷の住田に聞いた。
「はい、松山です。広島の中学を出て岡山の六高から東京帝大に入りました」
「それでなんで鈴木商店に入ったのかい?」と聞くと、
「海に憧れました。船会社は景気がいいし、将来は海運王を目指そうと思います」
とイケシャアシャアといった。
「がいなことをいう男やのう、だが若いもんはその気概がなくてはいけん」

 住田は、鈴木商店に入ってすぐ乗船実習した。ジャワ、ウラジオストク、香港など東洋各地を見聞した。新進気鋭で元気いっぱいの住田は、(ひとつ世界の海運王になって岩崎財閥と覇を競ってやろう)とまるで亀三郎の若い時の心意気だった。
 「山下さんのことは金子専務から伺っていますが、初めて船を持った話など、ぜひ聞かせてもらいたいものです」
 亀三郎は、金子の使いで度々やってくる住田に、いつも昔話を聞かせた。住田は、頭脳明晰で人の云ったことはすべて記憶している。ボス金子の口述を筆記して『経済夜話』という本にし、後年は亀三郎のエピソードを自著に書いた。

内航海運新聞 2022/6/20