「トランパーの雄」出版まであと121日(円き月)

亀三郎は42歳落ち目の時に、紀尾井町大倉邸を訪問した。
腹の中は借金、救済のお願いを思考していた。満月の宵、広壮な邸宅で大倉喜八郎は食事中だった。(まあ、此処へ来い)と亀さんは座敷に通された。(大倉さん、私は1生涯に1日でもこの境遇になりたいもので…)というと、
(山下君、お好みとあらばこの僕の境遇を直ちにあげるよ。その代りに僕の年と君の年を代えてくれたまえ)と大倉がいった。
それを聞いた亀三郎は胸にズーンときた。何と愚かなことを言ったのかと恥じた。(よくわかりました)という挨拶をしてそうそうに引き下がった。
働き盛りは50,60である!亀さんは大倉翁の言葉は数千万言にも代えられないものと「肝成って心静か」と題し、翁の話を切り抜き朝夕の座右銘とした。
脱仙(亀三郎俳号)の一句
奢るなよ月のまるきも只一夜