シネマ「トランパー」その4

シーン8
(故郷吉田に凱旋)日露戦争に勝利した小国・日本は大騒ぎとなった
亀三郎は石炭の大量買付けで莫大な利益を得た、さらに購入した第2喜佐方丸や他の船主から船を借り、すべて海軍に御用船として提供し大きな利益を揚げ飛ぶ鳥を落とす勢いとなった
明治39年1月、吉田湾に3千トンの大型貨物船が現れた、亀三郎が持ち船「喜佐方丸」で妻カメと共に故郷に錦を飾ったのである

ふるさとやどちらを向いても山笑う =子規=

船側から故郷吉田の山河が見える、左に犬尾山、正面に遠く法華津の高森山が煙って見える、右には遠見山が迫っている
吉田港の桟橋には両親、喜佐方村の有志、日露戦争で戦った軍人など大勢が迎えた、周りの海辺りには多くの人々が「がいな船や、亀三郎さんはえらいことやったけんな!」と歓声をあげて見つめている
やがて船のデッキは黒山の人だかりとなった、マストの下で亀三郎が鼻をギュンギュン鳴らし演説をぶつ
「郷土の皆さん!この船がロシアとの戦いでお国のため働いた喜佐方丸ですらい、これからもがいに儲けてきますけん、楽しみにして待っとってやんなはいや」八歳の息子太郎は、父親が数百人の前で演説している光景を瞼に刻んだ
それから、船室に入った母ケイは、数時間たっても動こうとしない
「亀三郎や、今晩この船に泊めてくれることはできないか…」
この言葉を聞いた亀三郎は母の慈愛に涙した