『欧米独断』 第二南米篇(BA両国管見)

 吉次郎の視察は、南米に場所を移し移民問題等硬い話が続く…

『私今回の旅行は自治行政視察であるから、欧州が目的地であるけれども、新発展の実行に取懸かられている南米殊に、B,A二か国を見ておくことの切要なることを感じて、つい道草を食った訳である。(中略)私は僅少な時間を以って日本の二十二倍に余るブラジルと八倍あるアルゼンチンとを併せ見たのだから、九牛の一毛に過ぎぬのだ。これで意見を発表するのだから、これこそ真に管見であろう。さりながら私は幸いにこの二国に永住して事情を審にする多くの人に接して教えを受けることもできたし、所謂一班を見て全豹を知ることが不可能ともおもへぬのみならず、寧両国の真相を簡明に叙述して、移住を欲して狐疑する人々や、奨励せんとして躊躇する方々に断固たる決心を促す資料を與へ、移住を断行する人々に遺算後悔なからしめんこと翼ふと同時に、政府にも富豪にも国民一般にも訴えたいことを無遠慮に述べて見ようと思ふ。多くの数字を並べたり地理や人種を説いたりする閑日月は私には持ち合わせがないから、それは、専門の士に一任して置き尚ブックメーカーの利権を侵蝕すまいと思ふのである。
B國へ盛んに渡航者の現れたのは日露戦役後で、それでも早や20年の年月を得た。その成功失敗は影響するところが重大であるから軽視することは出来ない。而も或いは内地で喰い詰めたものが往ったのだから不成功は当たり前であるなどと、罵倒し去ることは以ての外で、假令彼等の中に右様のものが混じったとしても少数である。彼等の多くは国家の精鋭である。教育の程度も欧州移民に遥かに優り、熱帯に働くことに堪え居ると自信すべき体力の持主であり、渡航して剕棘を拓こうといふ気力ある敬うべき人々である以上、殊に農業に懸けては無比の力量を以って居って成功せぬ筈がない』