がいな男  (12) 欧州大戦勃発

 彼の福澤桃介は「金子直吉は我財界に於るナポレオンに比すべき英雄だ」と評した。鈴木商店の金子は欧州大戦勃発と聞くや、世界の商品、特に軍需品は必ず暴騰するとみて、ロンドンの高畑に「金に糸目をつけず、あるだけの鉄、物を買え)と号令した。
 金子は、土佐の尋常小学校しか出ていないが、奉公先の質屋の本を多読して知識を養った。海外に行った経験がなく船の知識もないが、海外から入るすべての情報を記憶し、各国の農産物、工業品などの動きも熟知していた。例えば、アルゼンチンのブエノスアイレスからドイツのハンブルグまでの距離が6,601浬あり、速力10浬の1万トン級で輸送すれば何隻で何日間でどれだけの小麦が運べるか分かっていた。ニューオリンズからリバプールまで4,532浬で綿を何隻で何日で輸送量は云々、然りである。更にブエノスアイレス水深26尺、ニューオリンズ30尺など港湾事情まで調査しており、欧州各国が輸出入する荷動きをにらんで、船腹の需給バランスをよんでいた。
 何というスーパービジネスマンだろう。土佐には傑物・岩崎弥太郎が輩出されたが、カリスマ金子直吉鈴木商店は一時、三井三菱をしのぐ売り上げを記録した。
 亀三郎は金子の霊感を帯びた爆買いに乗って提灯買いをした。

内航海運新聞 2022/4/18