がいな男  (10) 捲土重来

 明治の実業家・渋沢栄一大倉喜八郎の両雄は、国家発展のために多くの起業家を育て、多くの株式会社を創出した。
がいな男はその起業家の一人だが、経験の浅い成り上がり者だった。小樽木材会社、韓国倉庫会社に勢いのまま投資した。渋沢、大倉の大物と共に発起人に名を連ね、取締役に抜擢され鼻高々だった。しかし世間は甘くなかった。日露戦争の特需で稼いだ金は、バブル崩壊で株券は紙切れ同然となり、逆に莫大な借金を抱え込んだ。

 〝沈みつ浮きつ″…がいな男は石炭と海運で頭角を現したが投資に失敗、天はまた彼に試練を与えた。

 亀三郎は大倉喜八郎の豪邸で失言し恥をかいたが(財産はやるが、その代わり君の歳を僕にくれたまえ)という金言は、心機一転のきっかけとなった。

 がいな男は捲土重来を期し鎌倉「三橋旅館」に店の者を集め一席ぶった。
「わしの一存で大きな借金を作ったがこらえてくれ。しかしものは考えようだ、わしは、年々財産家になっている。帳簿は赤字でもわしにとって大いなる財産だ。何故なれば、この赤字があればこそ、俺の頭と腕は休みなく磨かれていく。みんな分かるか、赤字はわしにとって無二の親友であり宝なんだ」というと、店員たちは(親方はまたがいなことをいう)と呆れたが皆で再起を誓った。

2022.4..4 内航海運新聞

5/25 CNT駅前