がいな男 (6)秋山真之大尉
がいな男所藏の書簡には秋山真之からの親切なものが多いという。
舌 代
此度貴兄も管理局評議員に任命せられ国家的職員の一人となりたるに就而は是れ實に従来の個人的山下に進化する初段なれば其積りにて一個の利害得失等に顧慮せず国家の利害を主として其範囲内に於而自家及同業者の利益を擁護するが如く言動するの要ある事勿論に御座候。而して如此政府員を交えたる評議員に臨むには出来得る丈口を利かず成るべく人に物を言わして置きて最後に止めを刺すが秘訣にて初めから口を利いたら取り返しの附かざることと可相成又自分に疑わしいと思うた事は必ず後日発言の余裕を残し暫定的に突進せざる事必要なり。尚ほ此際に天下(日本)一般に対し山下の品格を認めしむる最上の好機会なれば堅くなるは無用なれど態度言動を一層厳正にするは勿論曾て咄したる献金等も此の際に断行し一方に於而衋すべき義務を果たし他方に於いて主張すべき處を飽く迄も貫徹するが宜敷但し其主張たるや前陳の国家的に割出したる主張たるを要し候。又此際同業の利益を擁護する為に策略や運動がましき事は一切なされまじくよし之に依り一時の目的を達するとも他年の発展に一大障害を残す事必然と確信いたし候。右はお考えもあるべけれども心附き候儘申進置候。昨夜の暴風にて小家お大分痛み候為め明日小田原に出発の筈の處二日許り延期いたし候。多分四日参り可申候。小田原別業の松樹は倒れざりしや必ず多少の被害ありし事と存候。 匇々
十一月一日 眞之
山下仁兄侍吏