「沈みつ浮きつ」若き人の為に(4)

  人のふり見て昭和15年12月20日

  人のふり見て我がふり直せ、この諺は娘子に対してその親が言ったことから生まれたと亀三郎翁はいう。

娘の友達の着物の着方、帯の締め方、髪型を見て、自分の身を振り返って見よ、という事。翁は、これは誠に意味深長で、天が我々に与える頂門の一針と言ってよかろうと語っている。

 翁の経験から十数年来の取引先などで、あのやり方、ああいうことを続けて、どうしてあの位置が保たれるか不思議に思っていると、何時となく地位を変えられ、閑職に追いやられ、一両年経つても反省の実が挙げられず、遂に自然淘汰される。

 また、何々コンツエルンとか言って50歳程のやり手と称される人が、その経営を理想的、数字的に編成し、限りなき発展を図っていたが、今日に於いて大なる蹉跌を来した。これ等もその人のやり方を見て自分が振り返って見る大なる参考資料となる。

 翁は、仕事をする中で信念のみで進むことは甚だ危険で、時々これで良いのかということを、第三者のやり方を見て、我が経営方法に生かすことが肝要という。

「信用の鍵というものはこれを第三者が持っているもので、決して自分が持っているものではない。信用のみでなく自分の価値、自分を計る尺度というようなものも、これは第三者が自分をふむ価値、自分を計る尺度の方が確かで、自己価値、自己尺度というものは決して確かなものではない」と述べている。

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 ブロガーの拙い経験からも云えるが、自分の周りにも反面教師はいるもので、あのようには成りたくない、あれはヒドイとか、しかし自分自身も端から見るとどうだか、と反省したりすることがある。

 会社でも倒産するにはそれ相応の理由がある。経営者の放漫経営で有ったり、現状をよく観察せず将来を見誤ったりして会社を潰す。勿論、経済情勢の激変など外的要因で会社が立ちいかなくなることもあるだろう。

 ブロガーは運が良かったのか、会社の倒産、転職などの憂き目に遭ったことがない。合従連衡はあったが、会社は存続した。余程、経営陣・先輩たちが優秀だったのか、先人の教えの通り“人のふり見て我がふり直せ”と切磋琢磨されたのだろう。

 山下亀三郎翁は、七転び八起きで世間の荒波を越えて来た。

絶頂の時は周りが見えないものなのか?人のふりを見ることもなく、遂には奈落の底に落ちて行った。

だが、翁は失敗を繰返しながらも、不撓不屈の努力で何度も立ちあがった。

「沈みつ浮きつ」には、亀三郎翁の体験談が豊富に載っており、現代人にも参考になる所がある。

 

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  18歳で上京     京苑先生筆    絶頂時、吉田寄港

  (宮本しげる『トランパー』より引用)